【食用】
巣ごと容器に入れられた蜂蜜(巣蜜)
蜂蜜と人類の関わりは古く、英語には「蜂蜜の歴史は人類の歴史」ということわざがある。蜂蜜は、人類が初めて使用した甘味料といわれており、イングランド南部では紀元前2500年頃に壺型の土器に蜂蜜が入れられていた痕跡が発見されている。
人類は当初、巣房(ミツバチの巣を構成する六角形の小部屋)ごと食べる形で蜂蜜を摂取した。古代エジプトで蜂蜜は、イナゴマメ(キャロブ)と並び主要な甘味料であった。蜂蜜が人々の食生活に広く浸透し始めたのは古代ギリシャ時代のことで、ギリシア神話には巣に入った蜂蜜が供される場面が登場する。
古代ギリシャでは多くの文芸作品、さらにはプラトン、アリストテレスといった哲学者の著作にも蜂蜜が登場する。アリストテレスの記述をもとにした試算では、当時のアッティカの自由市民1人あたりの消費量は20世紀後半の日本の国民1人あたりの消費量をはるかに上回っている。それに応じて養蜂も盛んに行われ、プルタルコスの『対比列伝』には、政治家ソロンが活躍した時代に養蜂場間の距離規制(300プース以上離さなくてはならない)に関する法律が制定されたという話題が登場する。
また蜂蜜を使った保存食も、古くから世界中で利用されてきた。現在でもジャム・プレザーブはもちろんのこと、レモンやゆずなどの果物、生姜などの野菜をそのまま蜂蜜漬けにしたものなどが日常的に食卓を彩っている。その他蜂蜜を固めて作ったのど飴や、蜂蜜ドリンクなど、様々な加工食品が製造されているほか、さらに最近では、東ヨーロッパの保存食を発祥とし、モデルなど健康意識の高い層に人気の栄養食であるナッツの蜂蜜漬けも日本国内で製造・販売され始めている。
【調味料】
紀元前15世紀、トトメス3世時代のエジプトの遺跡の壁画には、養蜂とともに蜂蜜入りのパン菓子を作る様子が描かれている。約300年後のラムセス3世の墓の壁画にも同様の絵が描かれており、菓子の種類が増えていることが読み取れる。
エジプトのパン菓子はギリシャに伝わった。古代アテナイの喜劇作家アリストパネスの作品『アカルナイの人々』(紀元前425年発表)の中には蜂蜜入りのパンが登場する。紀元前200年頃にはギリシャ産の蜂蜜を使って72種類のパン菓子が作られていたといわれる。パンと菓子の分化も進んでいった。当時蜂蜜は大変高価で、キュレネの遺跡からは土地の権利と引き換えに蜂蜜を手に入れた入植者について記述された碑文が出土している。製菓、製パンにおいて蜂蜜は、甘みを加えるだけでなく酵母増殖を促進する機能も有している。その後、蜂蜜を使ったパンや菓子はローマ、さらにヨーロッパ全土へと広まった。古代ローマにおいて蜂蜜はパン以外の料理にも用いられた。ローマの美食家マルクス・ガウィウス・アピキウスの著書『アピキウスの料理書』に収録されているレシピは西洋料理の起源とされるが、500点中170点ほどが蜂蜜を使用した料理に関するものである。
東洋においては中国の戦国時代、楚辞『招魂』の中に「粔籹蜜餌」という名の蜂蜜を用いた菓子が登場する。「粔籹」は餅米粉と小麦粉、蜂蜜を混ぜて揚げた菓子を指し、「餌」はキビを臼でついて作った餅を指すことから、これはきび団子風の餅に蜂蜜をかけたもの、または餅に蜂蜜を混ぜて作ったものと推測される。「粔籹」という語は紀元前2世紀の墳墓、馬王堆漢墓の副葬品の竹簡にも登場する。「粔籹」の語は日本にも伝わり、平安時代中期発行の『和名類聚抄』に登場する。ただしここでは製法について「蜜と米を和し煮詰めて作る」と紹介されており、内容が変化している。ちなみに『和名類聚抄』において本来の「粔籹」は、「環餅」(まがり)として紹介されている。
魚料理に用いると、魚の臭みを減らす働きをする。
これは蜂蜜に含まれる酸が魚の臭みの原因であるアミンの揮発性をなくすためである。煮魚や照り焼きを作る際に味噌や醤油に蜂蜜を混ぜると、香りの良さが向上する。これは蜂蜜の香り自体が魚の臭いを覆うだけでなく、蜂蜜に含まれるグルコースとフルクトースが魚のタンパク質や味噌・醤油のアミノ酸とアミノカルボニル反応と呼ばれる反応を起こし、それによって生じた香り成分がアミンと結合し、魚臭さを打ち消すことによる。
肉料理に用いると、浸透性の高さによって肉の組織に浸透し、過熱による肉の収縮・硬化を防ぐ。また、蜂蜜に含まれる有機酸は肉の保水性を高め、肉を軟化させる。さらにグルコースとフルクトースが熱によって短時間でカラメル化するため、肉の表面が固められ、内部に水分やうまみを閉じ込めることができる。
炊飯の際に蜂蜜を加えると、グルコースとフルクトースが米の内部に浸透し保水性を高め、さらに加熱されたアミラーゼが米に含まれるデンプンをブドウ糖に転化することで味を高める効果をもたらす。
そのほか、調味料としての蜂蜜はリンゴ、レンコン、ゴボウなどの褐色変化を防ぐ、イースト菌の発酵を促進するといった効果をもたらす。果実酒で使用したり、砂糖の代用としても利用される。
出典:Wikipedia